破壊されたもの
江戸時代のお厨子
中央の留め金の細工をはじめ、金具の造作がすばらしい。 また、色褪せてはいるが、上部の彫りの巧みさにも惹きつけられる。 漆黒のお厨子が、長い年月を経て、茶色様に変色してきているが、それもまた、味わい深い。 修理から帰って扉を開けたら・・・ 何日か前、お厨子と大日如来さまが、修理から帰ってきた。 「こうなりました」と お厨子の扉が開かれた時・・・ 私は一瞬、口がきけなかった。 確かに、 破損していた箇所は完璧に修理されていた。 最高級の金箔が貼られ、美しく燦然と輝いていた(2枚目の写真参照)。 けれども、私が望んでいたのは、こういう状態ではなかった。 江戸時代、それも五代綱吉の時代の彩色が鮮やかではなくとも、残っていた台座の部分が、すべて、金箔でくるまれ、彩色されていた姿が失われていた。細工のラインも金箔をかぶせたことで、すっかり失われてしまっていた。 「彩色された部分はそのままにしてください」 そう伝えたはずだったが、傷んだ台座の部分のかすかな彩色部分は、それに含まれない、と考えられたらしい。 はずれている部分をはずれないようにするだけ・・・ぐらいに考えていた私は、すっかり変ってしまった有様にただもう、落ち込むだけだった。 柱の部分など、精緻な彩色箇所がとりあえず、無傷で残った( 3枚目の写真参照)。 それをみれば、台座の部分の獅子などの彩色がどれほど精緻なものだったか、想像してもらえるかもしれない・・・。 とにかく、すばらしい彫りと彩色だったのである。 まさかこんなふうになるとは考えていなかったので、 写真すらきちんと撮っていなかった。 昔なら、死罪になるぐらいのことを、私はしてしまったのである。 千年も経てば・・・金箔もはがれてくることもあるかもしれない。彩色部分は、千年の眠りについたのだ・・・と思うしかない。 もとの状態に戻すことなど、できないのだから。 直してくださった職人さんは、傷んできているお厨子の状態から考えて、金箔を貼れば100年は楽に保つ状態になる、と考えてしてくださったのである。 ねずみに齧られた部分や、欠けた部分、なくなってしまった台座の獅子まで完全に補充した上での仕事に、あれこれ文句を言う気持ちにはとうていなれない。 あくまで、私が「現状保持が第一」と強くお願いしなかったのが悪かったのである。 まかせた側の責任が一番大きい。 破壊されてしまったものの大きさに、立ち尽くしているような状態である。
by kishibojinn
| 2006-09-01 12:33
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